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岡山地方裁判所 昭和32年(行)8号 判決

岡山市旭町一八〇番地

原告

万歳酒造株式会社

右代表者代表取締役

藤沢海太郎

右訴訟代理人弁護士

笠原房夫

裾分正重

岡山市天神町三番二三号

被告

岡山税務署長

右指定代理人検事

鴨井孝之

法務事務官 福島豊

大蔵事務官 渡辺岩雄

浅田和男

主文

被告が原告に対し昭和三〇年七月三〇日付をもつてなした原告の昭和二七年一〇月一日から同二八年九月三〇日までの事業年度における法人税の課税標準たる所得金額を金五一〇万七、一〇〇円とする再更正決定のうち金五〇八万〇、七五二円をこえる部分はこれを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

被告が昭和三〇年七月三〇日付をもつてなした

(1)  原告の昭和二七年一〇月一日から同二八年九月三〇日までの事業年度における法人税の課税標準たる所得金額を金五一〇万七、一〇〇円とする再更正決定のうち金二〇七万五、三二一円をこえる部分

(2)  原告の昭和二八年一〇月一日から同二九年九月三〇日までの事業年度における法人税の課税標準たる所得金額を金七四一万六、二〇〇円とする更正決定のうち金四八四万三、八〇〇円を超える部分

はいずれもこれを取り消す

との判決を求める。

二、被告

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は酒造業を営む株式会社で、昭和二五年四月頃法人税法二五条による青色申告の承認を受けたものである。

(二)  原告は昭和二八年一一月三〇日被告に対し、原告の昭和二七年一〇月一日から同二八年九月三〇日までの事業年度(昭和二七事業年度)の法人税課税標準たる所得金額を二〇七万、五、三二一円として青色申告書により確定申告したところ、被告は同二九年三月三一日付をもつて原告の右事業年度における所得額を三九六万七、八〇〇円と更正して同年四月二日頃その旨原告に通知し、さらに同三〇年七月三〇日付をもつてこれを五一〇万七、一〇〇円と再更正して同年八月二日頃その旨原告に通知した。

(三)  また原告は昭和二九年一一月三〇日被告に対し、原告の昭和二八年一〇月一日から同二九年九月三〇日までの事業年度(昭和二八年事業年度)の法人税課税標準たる所得金額を四八四万三、八〇〇円として同じく青色申告書により確定申告したところ、被告は同三〇年七月三〇日付をもつて原告の右事業年度における所得額を七四一万六、二〇〇円と更正して同年八月二日頃その旨原告に通知した。

(四)  原告は昭和三〇年九月二日被告に対し、原告の昭和二七事業年度の所得額についての右再更正決定および昭和二八事業年度の所得額についての右更正決定につきそれぞれ再調査の請求をしたところ、被告は同三一年三〇日付をもつていずれもこれを棄却し、その頃その旨原告に通知したので、原告は同年四月四日広島国税局長に対し右再調査棄却決定につき審査の請求をしたところ、同局長は同年五月二九日付をもつてこれを棄却し、同年六月一日頃その旨原告に通知した。

(五)  しかしながら、被告の原告に対する昭和二七事業年度の所得額についての再更正決定および昭和二八事業年度の所得額についての更正決定は次の事由によつていずれも違法である。

(1) 原告は前述のとおり昭和二七、二八両事業年度の所得額につき承認をえて青色申告書を提出して申告したものであるから、これについての更正ないし再更正決定の通知書にはその理由を附記しなければならないものなるところ、被告の原告に対する昭和二七事業年度の所得額についての再更正決定および二八事業年度の所得額についての更正決定の各通知書にはいずれもその理由が附記されていなかつたから、右各決定には法人税法三二条の規定に違反する違法がある。

(2) 原告の昭和二七事業年度の所得額は申告額二〇七万五、三二一円を、二八事業年度の所得額は申告額四八四万三、八〇〇円を越えないのであつて、被告の前記再更正決定および更正決定は右各申告額をこえる範囲で原告の所得を過大に評価した違法がある。

(六)  よつて原告は、被告の原告に対する昭和二七事業年度の所得額についての再更正決定および二八事業年度の所得額についての更正決定につき原告の右各申告額をこえる範囲においてその取消を求めるため本訴請求におよぶ。

二、請求原因に対する被告の答弁およびその主張

(一)  請求原因 (一)ないし(四)の各事実は認める。

(二)  同(五)の(1)について

(1) 被告が原告に対する昭和二七事業年度の所得額についての再更正決定の通知書および二八事業年度の所得額についての更正決定の通知書に各その理由を附記しなかつたことは認める。

(2) しかしながら、被告は昭和二七事業年度の所得額についての原告の青色申告書による確定申告について調査したところ、同事業年度についての原告会社備付けの帳簿には、後述のように、江井ケ島酒造株式会社に対する売上金一一三万九、三三二円((三)1(イ)(1))および協和醗酵・宝酒造・三楽酒造からの歩戻り金一二万七、〇〇〇円(同(ニ)(1)aないしc)の記載が脱ろうし、また架空の旅費四三万九、〇〇〇円(同(ヘ))が計上されているなど、その帳簿書類全体について真実性を疑うにたりると認められる事実の記載があつたため、法人税法二五条の規定にもとずき昭和二九年三月三〇日付をもつて原告に対する青色申告書提出の承認を右事業年度にさかのぼつて取消し、即日その旨原告に通知したから、右取消後になされた同事業年度の所得額についての再更正決定の通知書にはその理由を附記する必要がなく、また二八事業年度の所得額について提出された青色申告書は青色申告書としての効力がなく、白色申告書として扱われるべきものであるから、これについての更正決定の通知書にも同様その理由を附記する必要はなかつたものである。

(三)  同(五)の(2)について

原告の昭和二七事業年度の所得額は別表(一)の被告主張額記載のとおり五一〇万七、一五二円二三銭であり、二八事業年度の所得額は同(二)の同欄記載のとおり七五三万七、三一三円二七銭であつて、被告の原告に対する前者についての再更正決定および後者についての更正決定はいずれも右各所得額の範囲でなされたものであるから、右各決定には原告主張のような違法はない。

右両事業年度の所得について原告の主張とその額を異にする各科目につきその差異の生じた理由および被告主張額が正当であることについて説明すれば次のとおりである。

1 昭和二七事業年度

(イ) 清酒売上高一一四万五、四三二円について

原告主張の売上高は原告会社備付けの帳簿に記載されているものであるが、右のほかに

(1) 原告が江井ケ島酒造株式会社に対し統制額をこえた価格で販売(未納税移出)したにもかかわらず、統制価格の範囲内で販売したように記帳してその差額計一一三万九、三三二円(円未満切捨)を記帳せず、

(2) 原告会社の役員が自家用に消費した清酒二級酒一升入二〇本・単価(生産者価額)三〇五円計、六、一〇〇円を記帳せず

計一一四万五、四三二円を脱ろうしている。

(ロ) 雑収入一五万三、四〇〇円について

右は左記(1)および(2)の合計である。

(1) アルコール仕入に対する歩戻り金一二万七、〇〇〇円

原告はその仕入先である協和醗酵株式会社・宝酒造株式会社・三楽酒造株式会社から仕入れたアルコールに対する歩戻り金(歩戻り金とは販売拡張策として販売者から購入者に対し購入金額または購入数量に応じて交付されるもので、その請求権は、特約のない限り販売者から購入者に対し商品の引渡しが行われたときに発生するのを原則とする)一二万七、〇〇〇円の交付を受け、あるいは交付を受けうべき請求権を有しながら、これを収入として帳簿に記載していないが、その内訳は次のとおりである。

a 協和醗酵二万七、〇〇〇円

昭和二七年一二月二七日買受けの一二石

同二八年三月七日買受けの三石

同月二〇日買受けの一〇石

同月三一日買受けの二石

計二七石に対し石当り一、〇〇〇円計二万七、〇〇〇円

b 宝酒造四万五、〇〇〇円

昭和二八年二月二三日買受けの四石

同月二五日買受けの一〇石

同年三月三日買受けの一〇石

同月一〇日買受けの一〇石

同月二〇日買受けの一一石

計四五石に対し石当り一、〇〇〇円計四万五、〇〇〇円

c 三楽酒造五万五、〇〇〇円

昭和二七年一二月二一日買受けの二四石

昭和二八年三月一七日買受けの一〇石

同月二〇日買受けの二一石

計五五石に対し石当り一、〇〇〇円計五万五、〇〇〇円

右は原告において同会社に対しアルコール買受代金のうち一一万円を支払つていないため、同会社もこれを支払つていないが、歩戻り金債権は、前述のとおりアルコールの引渡しが行われたときに発生するものであるから、益金として確定している。

(2) 家賃収入二万六、四〇〇円

一般に、自己所有の家屋を他人に貸与して使用させている場合には、相当額の家賃を徴収するのが通常であるところ、原告はその監査役藤沢喜久弥に対し、その所有建物を住居として提供しているのに、その家賃を徴収していない。このことは原告において喜久弥に対し家賃相当額を利得させて、これに相当する原告の収入を減少させている結果になるところ、原告会社の本事業年度における発行済株式金額は七五万円であるが、そのうち代表取締役の持株金額は三〇万円、取締役藤沢保昌のそれは一〇万円、同藤沢忠雄のそれは金一〇万円、右喜久弥のそれは一〇万円であつて右四名は兄弟であるから、原告会社は法人税法七条の二にいう同族会社である。そこで被告は同法三一条の二にもとずき、原告が右家賃を徴収しないことは法人税の負担を不当に減少させる行為であると認めてこれを否認し、通常取得すべき家賃を月額二、二〇〇円(年額二万六、四〇〇円)と認めてこれを益金に加算したものである。右の適正家賃は被告において近隣の実例を調査したところ、別表(二)のような結果を得たので右のように認定したものである。

(ハ) 期末製品棚卸高一四万六、五一〇円について

原告は期末棚卸商品の評価にあたり空瓶(一升瓶)一本の単価を一〇銭として評価しているが、昭和二八年九月三〇日現在における空瓶一本の時価は三〇円であつたところ、空瓶の在庫は、四、九〇〇本あつたから、左記の計算方法によりその差額一四万六、五一〇円を加算したものである。

(30-0.1)×4,900-146,510

(ニ) 給料九一万六、四〇〇円について

右は左記(1)および(2)の合計である。

(1) 追給、給料六二万二、〇〇〇円

原告は昭和二八年八月末日、昭和二七事業年度開始の二七年一〇月にさかのぼつて役員の給料増額を定め、該事業年度の終期である二八年九月に次のとおり計六二万二、〇〇〇円を追給したが、右は予め支給の定のない給与であるから利益処分の賞与と認むべきであり、損金と認むべきではない。

〈省略〉

かりに右追給分が賞与ではないとしても、次項で述べるとおり、取締役藤沢保昌については月額二万二、二〇〇円分が、監査役藤沢喜久弥については月額二万円分が不相当に高額であるから、それぞれ一〇ケ月分二二万二、〇〇〇円および二〇万円計四二万二、〇〇〇円は損金とは認められない。

(2) 不相当高額給料二九万四、四〇〇円

原告は昭和二八年七月までは取締役藤沢保昌に対して一万五、〇〇〇円、同藤沢忠雄および監査役藤沢喜久弥に対して各二万円の月額給料を支給していたが、前項に述べたとおり、同年八月末日、昭和二七年一〇月にさかのぼつて保昌に対しては三万二、二〇〇円の、喜久弥に対しては三万円の各月額給料を追加支給することとし、二八年七月までの分として前者に対しては計三二万二、〇〇〇円を、後者に対しては計三〇万円を各追給したほか、右三者に対して次のとおり支給した。

〈省略〉

ところで、保昌は原告会社の常勤取締役であり、喜久弥は常勤監査役であるが、喜久弥も大半は取締役の業務を行つているので給与の面では常勤取締役と同様に取扱うのが相当である。一方忠雄は別に玉島市において酒類の製造に従事していて毎年一月から三月までの酒造期に数日づつ勤務するにすぎない非常勤の取締役であるところ、被告において、原告会社と類似する年間売上高一、〇〇〇万円以上、移出石数三〇〇石以上の同族法人(岡山県内)および非同族法人(広島国税局管内)について、右三名とその地位をほぼ同じくする役員の平均月額給与を調査したところ、次のような結果を得た。

〈省略〉

原告会社がいわゆる同族会社であることは前述のとおりであるところ、被告は原告が右三名に支給した前記給料のうち保昌については月額二万五、〇〇〇円を、喜久弥については同三万円を、忠雄については同一万円をそれぞれ相当と認め、なお忠雄についてはその勤務する三ケ月分のみ支給すべきものと認めて、その差額二九万四、四〇〇円を次のとおり否認したものである。

〈省略〉

被告が適正と認めた右三名に対する給与月額が相当であることは、これらがいずれも前記の調査結果を上まわつていることからも明らかである。

(ホ) 酒税一九万六、〇四〇円について

原告は酒税納付額として六三八万五、〇六〇円を損金に計上しているが、そのうち一九万六、〇四〇円は過年度分酒税還付金をもつて充当したものであるから、これを益金に計上したうえ六三八万五、〇六〇円を損金に計上するか、あるいは還付金を益金に計上せずにその差額六一八万九、〇二〇円を損金として計上すべきであるのに、還付金を益金に計上せずに、しかも六三八万五、〇六〇円を損金に計上しているから、還付金に相当する一九万六、〇四〇円は損金と認められない。

(ヘ) 旅費四三万九、〇〇〇円について

原告は役員の出張に際し所要旅費を算定(一〇〇円未満切捨)して支給する方法によるほか、出張時には支給しないで所要旅費相当額を当該出張役員からの借入金として計上したうえ、後日これを返済するという特異な方法によつており、しかもこの場合にはすべて一、〇〇〇円未満は切捨計算されているので、その出張期間・宿泊先の釈明を求めて証憑資料の提出を求めたところ、これが保存されておらず、かつ出張期間は不明で、宿泊先が明らかにされたのは東京都中野駅前の宝来家旅館のみであつて、これも調査したところ宿泊の事実はないことが判明したので、右特異の方法によつて支出したとする旅費四三万九、〇〇〇円は架空のものと認めてこれを否認したものであるが、その内訳は次のとおりである。

〈省略〉

2 昭和二八事業年度

(イ) 清酒売上高三二四万一、一九四円

原告主張の売上高はその備え付けの帳簿に記載されているものであるが、右のほかに原告は

(1) 左記の取引先に対し清酒をその統制額を超えた価格で販売(未納税移出)したにもかかわらず、統制価格の範囲内で販売したように過少に記帳してその差額計二三七万九、五九四円(円未満切捨)を記帳せず

〈省略〉

(2) 昭和二九年九月一〇日三重酒類販売株式会社津支店に対し二級酒二四石八六万一、六〇〇円相当を販売しているのに、当期の売上には計上せずに、その代金が入金した同年一〇月七日(翌事業年度)の売上に計上して

計三二四万一、一九四円を脱ろうしている。

(ロ) 雑収入二万四、〇〇〇円

原告は昭和二九年九月三〇日三重酒類販売株式会社に対し清酒二四石を販売したが、その際統制価格である一升当り三五九円計八六万一、六〇〇円の代金のほか、一升当り一〇円計二万四、〇〇〇円のプレミアム(プレミアムとは本来の代金のほかに、これに附加して買主から売主に支払われる一定割合の金員で、本件の場合、当時清酒を統制価格で購入することが困難であつたところから支払われたものであつて、その請求権は商品引渡しと同時に確定する)を受取つておりながら、これを益金として計上せずに脱ろうしている。

(ハ) 前期末棚卸否認額一四万六、五一〇円

被告は前期において一四万六、五一〇円の期末棚卸額を加算した(前記1の(ヘ))ので、当期においてこれを期首棚卸額に加算した。

(ニ) 製造経費二、九二四円

建物(倉庫)・機械装置(タンク)について前記から繰越した減価償却超過額のうち二、九二四円が当期の損金と認められるのに、原告はこれを計上していないので、加算した。

(ホ) 減価償却費二、五六九円

車輛運搬具について前期から繰越した減価償却超過額のうち二、五六九円が当期の損金と認められるのに、原告はこれを計上していないので、これを加算した。

(四)  右の次第で、被告の原告に対する再更正決定および更正決定にはいずれも原告の主張する違法事由はないのみならず、昭和二七事業年度の所得については、昭和二九年三月三一日付をもつて被告のなした更正決定について、原告は同年四月二九日被告に対し再調査の請求をしたところ、法人税法三五条三項二号によつてこれが広島国税局長に対する審査の請求とみなされたが、同局長は同三〇年一一月二五日これを棄却したから、右棄却決定の日から一年以上経過した後に提起された本訴においては右更正決定にかかる所得額三九六万七、八〇〇円の範囲では原告はもはやこれを争いえないものというべく、いずれにしても原告の本訴請求は失当である。

三、被告の主張に対する原告の答弁およびその反駁

(一)  被告の主張(二)の(2)について

(1) 被告がその主張するとおり、昭和二九年三月三〇日付をもつて原告に対する青色申告書提出の承認を取消してその旨原告に通知したことは認める。

(2) しかしながら、右承認取消の通知書には条理上その理由を附記しなければならないものというべきところ、原告に対する右通知書にはその理由が附記されていなかつたのみならず、原告には被告の主張するような法人税法所定の取消事由に該当する事実はなかつたから、いずれにしても右承認の取消処分は当然に無効であるといわなければならない。

(二)  同(三)について

原告の昭和二七、同二八事業年度の収支各科目の金額はそれぞれ別表(一)、(二)の原告主張額のとおりであつて、被告主張の収支各科目およびその額中、原告主張のそれと異る部分のうち、1の(ロ)の(2)に関し、原告の発行済株式・その株主およびその持株数ならびにその身分関係、1の(ニ)に関し、原告の役員に対する給与の明細(追給または支給の期間、月額、総額)がそれぞれ被告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

原告会社備え付けの帳簿には被告の主張するような収入金の脱ろう・架空経費の計上等の不実の記載はまつたくない。

(三)  同(四)について

(1) 昭和二七事業年度の所得額についての更正決定に対する再調査の請求ないし審査請求の棄却決定にいたる経過が被告主張のとおりであることは認める。

(2) しかしながら、被告は右の審査決定がなされる前に本件の再更正決定をなしたものであるから、これによつて右更正決定を自ら取消したものというべく、原告が右更正決定にかかる所得額に拘束されるいわれはない。

四、原告の右主張に対する被告の反駁

(一)、(一)の(2)について

(1) 青色申告書提出の承認取消について、昭和三四年法律第八〇号による改正前の法人税法二五条八項には単にその通知をなすべきことが定められているのみであつて、その通知書に取消の理由を附記すべきことを定めた規定はなく(これが必要とされたのは右法律第八〇号による改正によつて同条九項に後段が追加されたことによるのであつて、右規定は昭和三四年四月一日以降の取消通知書から適用するものとされている)。また条理上これを附記すべしとする根拠もない。

(2) 原告会社に法人税法所定の取消事由に該当する事実があつたことは前述のとおりであるが、仮りにこの事実の認定に誤りがあつたとしても、右のかしは取消処分を当然無効にするものではなくして、単にその取消原因たりうるに止るものというべく、しかして右取消処分の取消は法定の出訴期間を徒過した現在もはやこれを訴求しえないものというべきである。

(二)、(三)の(2)について

再更正決定は更正決定額にその予定がある場合にその予定額についてなされる別個独立の処分であることは法人税法三一条の規定から明らかであつて、再更正決定によつて更正決定が取消され、あるいは吸収されて消滅するという性質のものではない。

第三、証拠関係

一、原告

(1)  甲第一ないし第三号証・第四号証の一ないし一四・第五号証の一ないし七・第六号証を提出し、証人藤沢保昌の証言および原告代表者本人尋問の結果を援用する。

(2)  乙第一号証・第一四号証の一・第三七号証の一、二・第九〇および第九二号証の各一、二・第九四号証・第九五号証の一ないし三・第九六号証の一ないし四・第九七号証の一、二の各成立、同第二三ないし第二六号証・第三〇ないし第三四号証の各原本の存在およびその成立はそれぞれ認めるが、その余の乙号各証の成立は知らない。

二、被告

(1)  乙第一ないし第五号証、第六号証の一、二・第七号証の一ないし九・第八ないし第一〇第証の各一、二・第一一ないし第一三号証・第一四号証の一、二・第一五、一六号証・第一七号証の一ないし五・第一八ないし第三六号証・第三七号証の一、二・第三八、三九号証の各一ないし三・第四〇、四一号証の各一、二・第四二号証の一ないし三・第四三ないし第四六号証の各一、二・第四七ないし第七四号証・第七五号証の一ないし一二・第七六号証の一ないし五・第七七号証の一、二・第七八号証・第七九号証の一ないし三・第八〇号証の一ないし四・第八一、八二号証の各一ないし九・第八三号証の一ないし五・第八四号証の一ないし七・第八五号証の一、二・第八六号証の一ないし七・第八七号証の一ないし八・第八八号号証の一ないし四・第八九号証・第九〇号証の一ないし三・第九一号証の一ないし六・第九二号証の一、二・第九三号証の一ないし四・第九四号証・第九五号証の一ないし三・第九六号証の一ないし四・第九七号証の一、二・第九八号証を提出し、証人伊藤修二・同沢村盛茂・同高見壬寅・同平野新市・同原韶・同日置善助・同臼田愈・同矢部忍・同藤井統・同中島清次・同高木茂・同石田金之助・同田原広の各証言を援用する。

(2)  甲第一ないし第三号証の各成立は認めるが、その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一、請求原因(一)ないし(四)の各事実は当事者間に争いがない。

二、被告は昭和二七事業年度の所得額について原告は昭和二九年三月三一日の更正決定にかかる金三九六万七、八〇〇円の範囲ではもはやこれを争うことができない旨主張するけれども、国税通則法施行前においては右更正決定はその後の再更正決定により取消されたものと解されるから被告の右主張は採用し難い。

原告は被告の原告に対する昭和二七事業年度の所得額についての再更正決定および二八事業年度の所得額についての更正決定の各通知書にはいずれもその理由が附記されていなかつたから、右各決定は違法であると主張するので、まずこの点について考えるのに、

(一)  法人税法三二条の規定によれば、青色申告書を提出することができる法人の青色申告書を提出した事業年度分について更正決定がなされた場合には通知の書面にその理由を附記しなければならないところ、被告が右各通知書にその理由を附記しなかつたことは当事者間に争いがない。

(二)  しかして、被告が原告の昭和二七事業年度分について、昭和二九年三月三〇日付をもつて原告に対する青色申告書提出の承認を取消してその旨原告に通知したことは当事者間に争いがないところ、原告は右承認取消処分の通知書にはその理由が記載されていなかつたから右処分は当然に無効であると主張するが、右処分当時施行されていた昭和三四年法律第八〇号による改正前の法人税法にはこの処分の通知書にその理由を記載すべきことを定めた規定はなく(取消理由の附記が必要とされたのは右改正法律によつて追加された同法二五条九項後段による)、条理上これを附記することが望ましいとはいえるけれども、これをしなかつたからといつて直ちに承認取消の処分が当然に無効に帰すると解すべき根拠もない。

(三)  そこで原告は、原告には右承認取消の事由に該当する事実がなかつたと主張するので考えてみよう。

(1)  収入金の記帳脱ろう

(イ) 証人高木茂の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二号証・同証言および証人高見壬寅の証言によつて真正に成立したものと認められる同第七号証の一ないし九・右乙第七号証の一によつて真正に成立したものと認められる同第四号証に右各証言を綜合すれば、原告は昭和二七年一〇月二八日から同二八年三月一六日までの間に前後九回にわたり、兵庫県明石市の江井ケ島酒造株式会社に対して清酒を売渡し(未納税移出)、その代金として統制価格である計金四七四万〇、八二四円のほかに、これをこえる計金一一三万九、三三二円(円未満切捨)のプレミアムを受取りながら、備え付けの帳簿にこれを記入せずに脱ろうしていたことが、

(ロ) また、成立に争いのない乙第一四号証の一・証人藤井統の証言によつて真正に成立したものと認められる同号証の二・同田原広の証言によつて真正に成立したものと認められる同第一五、一六号証および同第一七号証の一ないし五に右各証言を綜合すれば、原告は、広島市の協和醗酵株式会社広島工場からは昭和二七年一二月二七日から同二八年三月三一日までの間に計二七石の、福山市の宝酒造株式会社鞆工場からは同年二月二三日から同年三月二〇日までの間に計四五石の、熊本県八代市の三楽酒造株式会社八代工場からは同二七年一二月二一日から同二八年三月二〇日までの間に計五五石のアルコールを買受けたところ、右各売主から販売量増進のための歩戻り金として一石につき金一、〇〇〇円宛計金一二万七、〇〇〇円を受領し、あるいはその支払を受け得べき請求権を取得しながらこれを記帳せずに脱ろしていたことが

それぞれ認められる。右認定に反する甲第一ないし第三号証の各記載および証人藤沢保昌・原告会社代表者本人の各供述部分は前記各証拠にてらして措信せず、他に右認定をくつがえすにたりる証拠はない。

(2)  架空旅費四三万九、〇〇〇円の計上について

前顕乙第九一号証の四、五・前顕矢部証人の証言により成立を是認する同第三五、三六号証・成立に争いのない同第九五号証の一ないし三・同第九六号証の一ないし四・同証人の証言によれば、原告主張の旅費一〇二万七、九〇〇円の中には左記の旅費が包含されているところ、左記の旅費はいずれも原告の帳簿上は借入金として記帳せられているが、当時原告会社の経済状態は旅費を一時借入金として後日その支出をする必要がある程逼迫してはいないこと、右各旅費についてはいずれも一、〇〇〇円未満の端数が存しないこと、原告会社監査役藤沢喜久弥は東京出張の際は常に中野駅前の宝来家なる旅館に宿泊している旨岡山税務署矢部事務官に対し供述しているのに、同税務署よりの照会に対し同旅館よりは昭和二七年一〇月一日以降昭和二九年四月九日までの間に原告会社重役四名はそのうち藤沢海太郎が昭和二八年一一月七日、同月八日の両日宿泊したのみである旨を回答していることを認め得べく、右各事実を綜合すれば、左記旅費はいずれも架空のものと認むべきであり、原告の帳簿にこれが計上されているものといわねばならない。右認定に反する乙第三五証の記載内容は措信し難く、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

年月日 出張先 交通費 手当 交際費 計 出張者

28・1・2 東京 五、〇〇〇 一〇、〇〇〇 二〇、〇〇〇 三五、〇〇〇 喜久弥

28・2・6 〃 五、〇〇〇 一四、〇〇〇 五〇、〇〇〇二八、〇〇〇 九七、〇〇〇 〃

28・3・15 〃 五、〇〇〇 一四、〇〇〇 二八、〇〇〇 四七、〇〇〇 〃

28・4・9 九州       七〇、〇〇〇 社長保昌

28・4・23 〃       九〇、〇〇〇 〃

28・6・3 東京       一〇〇、〇〇〇 〃

合計 四三九、〇〇〇

(四)  ところで、青色申告書提出の承認取消処分は、前記昭和三四年法律第八〇条による改正前においては、処分時において処分事由に該当する事実が客観的に存在するをもつて足り、処分権者である行政庁においてこの事実の存在およびこの事実を理由として該処分を行うものであることを認識してこれを行うことを要しないものと解すべきところ、前認定の記帳脱ろうがあつたことをもつてすれば、原告会社の帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うにたりるものということができるから、被告が原告に対してなした本件青色申告書提出の承認を取消す旨の処分は、処分当時における被告の認識いかんを判断するまでもなく、適法有効のものといわねばならない。

そうだとすれば、昭和二七、二八両事業年度の所得額について申告した原告に対し通知書に理由を附記せずして前者について再更正決定を、後者について更正決定をそれぞれなしたことは違法ではないものというべく、この点についての原告の主張は失当である。

(五)  右両事業年度の所得について原被告の主張の相違する点を順次検討すると次のとおりである。

1  昭和二七事業年度

(イ) 清酒売上高一一四万五、四三二円について

原告が訴外江井ケ島酒造株式会社より清酒取引に際し統制価格を超える金一一三万九、三三二円のプレミアムを受取つていたことは前認定のとおりである。

つぎに原告会社役員が自家用に清酒六、一〇〇円相当を消費したことにつき検討するに、証人矢部忍の証言により成立を是認する乙第九一号証の四、五・弁論の全趣旨により成立を認める同第九八号証・同証人の証言を綜合すれば、昭和二七事業年度において原告会社の役員四名が同会社の生産した清酒二級酒一升入二〇本単価(生産者価格)三〇五円計六、一〇〇円相当を自家用に消費したことを認めうる。

よつて清酒売上高は右金一一四万五、四三二円に争いのない金額一八五三万四、四一〇円五〇銭を加えた一九六七万九、八四二円五〇銭と認むべきである。

(ロ) 雑収入一五万三、四〇〇円について

(1) アルコール仕入に対する歩戻り金一二万七、〇〇〇円

原告が訴外協和醗酵株式会社広島工場・宝酒造株式会社鞆工場および三楽酒造株式会社八代工場よりアルコールを買受け、各売主から歩戻り金として合計金一二万七、〇〇〇円を受領したことは前認定のとおりである。

(2) 家賃収入二万六、四〇〇円

原告の発行済株式その株主および持株数ならびにその身分関係が原告主張のとおりであることは争いがなく、しかして右事実によれば、原告会社は法人税法七条の二にいう同族会社であることは明らかである。

証人矢部忍の証言により成立を是認しうる乙第九一号証の四、五・弁論の全趣旨により成立を是認する乙第九一号証の六・同証人の証言・証人藤沢保昌の証言を綜合すれば、右年度以前より原告は同会社監査役藤沢喜久弥をして同会社所有建物一棟に居住させていたことを認めうるが、前記藤沢証人の証言によれば、右建物は右喜久弥においてこれを私用に供していたのではなく、常駐の宿直員としてこれに居住していたものであり、しかも事務所、職人の食事の調理、食堂、臨時使用人の宿泊用にも使用せられていたのであつて、右使用方法は他人に対する賃貸よりも原告会社にとつて有益であることが認められ、前記乙第九一号証の四、五、六・乙第三七号証の一、二・矢部証人の証言をもつてしても右認定を動かすに足りないから、法人税法三〇条一項にいわゆる「これを容認した場合においては法人税の負担を不当に減少させる結果となる」場合に該当しないというべきである。よつて右規定の適用により所得を計算する被告の主張は失当である。

(ハ) 期末製品棚卸高一四万六、五一〇円について

前顕乙第九一号証の四・同第九八号証・矢部、藤沢各証人の証言を綜合すれば、原告が期末棚卸商品の評価にあたり空瓶(一升瓶)一本の単価を一〇銭として評価した事実、昭和二八年九月三〇日現在における空瓶一本の時価は少くも三〇円である事実、空瓶の在庫は四、九〇〇本あつた事実を認めうるから、差額一四万六、五一〇円(計算方法は被告主張のとおり)を加算した被告の計算は正当である。

(ニ) 給料九一万六、四〇〇円について

(1) 追給給料六二万二、〇〇〇円

原告が被告主張の日時に役員の給料を昭和二七年一〇月にさかのぼつて増額することを定め、同二八年九月に追給をしたことは弁論の全趣旨によりこれを認めうべく、その追給期間・追給月額・追給総額が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

しかして証人矢部忍の証言により成立を是認する乙第三五号証・前顕乙第九一号証の四を綜合すれば、前記の給料追給については株主総会の決議を経ないものであることが認められるからこれは実質的には給料ではないものというべく(商法二六九条)、賞与類似の利益処分であるといえるからこれを損金に算入することはできないものであり、この点の被告の主張は正当である。

(2) 不相当高額給料二九万四、四〇〇円

原告が被告主張の役員に対しその主張の期間その主張の月額および総額の支払をしたことは争いがない。

ところで藤沢保昌は原告会社の常勤取締役であること、藤沢喜久弥は常勤監査役であるが、大半は取締役の業務を行つていることは前記乙第三五号証、矢部証人、証人藤沢保昌の各証言に弁論の全趣旨を綜合してこれを認めうる。従つて給与の面では右喜久弥は常勤取締役と同様に取扱うのが相当である。

つぎに前顕矢部証人の証言によれば、藤沢忠雄は別に玉島市において職業に従事しており、毎年一月から三月までの酒造期中忙しい時に勤務するに過ぎない非常勤の取締役であることを認めうる。

しかして弁論の全趣旨により成立を是認する乙第三八、三九号証の各一ないし三・同第四〇、四一号証の各一、二・同第四二号証の一ないし三・同第四三ないし第四六号証の各一、二・同第四七ないし七四号証・同第七五号証の一ないし一二・同第七六号証の一ないし五・同第七七号証の一、二・同第七八号証・同七九号証の一ないし三・同第八〇号証の一ないし四・同第八一、八二号証の各一ないし九・同第八三号証の一ないし五・同第八四号証の一ないし七・同第八五号証の一、二・同第八六号証の一ないし七・同第八七号証の一ないし八・同第八八号証の一ないし四・同第八九号証を綜合すれば、被告において原告会社と類似する年間売上高一、〇〇〇万円以上・移出石数三〇〇石以上の同族法人(岡山県内)および非同族法人(広島国税局管内)について、右三名とその地位をほぼ同じくする役員の平均月額給与を調査したところ、被告主張のような結果を得たことが認められる。

そして原告会社がいわゆる同族会社に属することは前認定のとおりであるところ、前記役員の勤務状況に前記調査の結果とを考え合わせれば、被告において原告が右三名に支給した給料のうち、保昌については月額二万五、〇〇〇円、喜久弥については同三万円、忠雄については同一万円をそれぞれ相当と認め、かつ、忠雄についてはその勤務する三ケ月分のみを支給すべきものと認め、被告主張のとおり各人につき否認月額給料否認総額を算出したうえ、二九万四、四〇〇円を否認したのは正当であるといわねばならない。

(ホ) 酒税一九万六、〇四〇円について

原告は酒税納付額として六三八万五、〇六〇円を損金に計上し主張しているところ、前顕乙第九一号証の四によれば、そのうち一九万六、〇四〇円は過年度分酒税還付金をもつて充当したものであることを認めうる。そうすると、右還付金を益金に計上したうえ六三八万五、〇六〇円を損金に計上するか、または還付金を益金に計上せずにその差額六一八万九、〇二〇円を損金に計上すべきである。しかるに原告が還付金を益金に計上しないままで右六三八万五、〇六〇円の損金を計上していることは弁論の全趣旨により明白であるから、一九万六、〇四〇円については損金と認められないのは当然であり、この点の被告主張は正当である。

(ヘ) 旅費四三万九、〇〇〇円

右旅費が架空のものと認むべきことは前認定のとおりである。

2  昭和二八事業年度

(イ) 清酒売上高三二四万一、一九四円

原告主張の売上高がその備付の帳簿に記載されているものであることは弁論の全趣旨により明らかである。

(1) 証人中島清次の証言により成立を是認する乙第五号証・証人伊藤修二の証言により成立を是認する同第八号証の一、二・証人臼田愈の証言により成立を是認する同第一〇号証の一、二・証人高木茂の証言により成立を是認する同第一一、一二号証・前顕中島証人の証言により成立を是認する同第九三号証の三・証人伊藤修二・同臼田愈・同高木茂の各証言を綜合すれば、原告が訴外平野醸造合資会社に対し

前顕乙第五号証・同第八号証の一、二・証人平野新市の証言により成立を是認する同第九号証の一、二・前顕乙第一一、一二号証・同第九三号証の三・前顕伊藤証人平野証人・同高木証人の証言を綜合すれば、原告が訴外合資会社平野本店に対し

前顕乙第四号証・同第七号証の一ないし九・同第九三号証の三・前顕高見証人・高木証人の各証言を綜合すれば、原告が訴外江井ケ島酒造株式会社に対し

それぞれ被告主張の販売石数・販売額・記帳額・脱ろう額のとおり、清酒を統制額を超えた価格で販売(未納税移出)したにもかかわらず、統制額の範囲内で販売したように過少に記帳して、その差額二三七万九、五九四円を記帳しなかつたことを認めうる。

右認定に反する証人藤沢保昌の証言、原告代表者本人の尋問の結果は措信し難く他に右認定を動かすに足る証拠は存しない。

もつとも、平野醸造合資会社の関係では甲第四号証の一一・同号証の一四・同第五号証の五(いずれも領収書)があり、合資会社平野本店の関係では甲第四号証の一二、一三・同第五号証の四(いずれも領収書)があり、江井ケ島酒造株式会社の関係では甲第三号証(明細書)・同第四号証の五ないし九・同第五号証の二・同号証の六(いずれも領収書)・同号証の七(計算書)・甲第一号証(手紙)があつて、これらによれば、原告は右各訴外会社に対し清酒を販売するに際し、その代金は統制額の範囲を超えなかつたものと疑うに足るけれども、右各会社の関係において挙示した前記各乙号証・証人の証言によれば、取引はいずれも統制額を超えたものであつたが前記甲号証中の領収書・明細書・計算書にはことさら統制額のみが記載せられ、統制額超過部分いわゆるプレミアムについては別にその領収書が作成せられたものであること、甲第一号証(手紙)は特に原告会社の依頼によりその希望する文案を作り、原告宛に送られたものであることが認められるから、いずれも前認定事実の反証となすに足らない。

(2) 成立に争いのない乙第九二号証の二・前顕中島証人の証言により成立を是認する同第九三号証の四・証人田原広の証言により成立を是認する同第九四号証に弁論の全趣旨を綜合すれば、原告が昭和二九年九月一〇日訴外三重酒類販売株式会社津支店に対し二級酒二四石八六万一、六〇〇円相当を販売しながら当期の売上には計上せず、その代金が入金せられた同年一〇月七日(翌事業年度)の売上に計上したことが認められる。

よつて原告は前記(1)、(2)合計三二四万一、一九四円の売上脱ろうをしているものというべきである。

(ロ) 雑収入二万四、〇〇〇円

証人沢村盛茂の証言により成立を是認する乙第六号証の一、二・成立に争いのない乙第二三ないし二六号証・弁論の全趣旨により成立を是認する同第二七号証・前記沢村証人、高木証人の各証言に弁論の全趣旨を綜合すれば、原告が昭和二九年九月三〇日三重酒類販売株式会社に対し、清酒二四石を販売したが、その際統制価格である一升当り三五九円計八六万一、六〇〇円の代金のほか、一升当り一〇円計二万四、〇〇〇円のプレミアム(その説明は被告主張のとおり)を受取つておりながら、これを益金として計上せずに脱ろうしていることが認められる。

(ハ) 前期末棚卸否認額一四万六、五一〇円

被告が前期において一四万六、五一〇円の期末棚卸額を加算し(前記1の(ハ))、右計算は正当であること前認定のとおりであるからこれを当期において期首棚卸額に加算したのは正当であることはいうまでもないところである。

(ニ) 製造経費二、九二四円および(ホ)減価償却費二、五六九円

右はいずれも原告において損金として計上しないものを被告において原告の利益のため損金として加算したものであつて、従つて弁論の全趣旨によりこれが正当なることを認めうる。

そうすると昭和二七年度の所得中、1(ニ)雑収入の一部二万六、四〇〇円については被告の所得計算は失当であるが、その余即ち金五〇八万〇、七五二円(銭位切捨)の限度で正当であるというべく、昭和二八年度の更正決定における被告の所得計算はむしろ過少であり結局正当であるというべきである。

よつて原告の本訴請求は前記昭和二七年度の所得について前記の限度において認容し、その余および昭和二八年度の所得について棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柚木淳 裁判官 井関浩 裁判官金野俊雄は転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 柚木淳)

別表(一)(昭和二七年度分)

〈省略〉

以上

別表(一)の(1)(売上原価明細)

〈省略〉

以上

別表(一)の(2)(一般管理・販売費明細)

〈省略〉

以上

別表(二)(昭和二八事業年度)

〈省略〉

以上

別表(二)の(1)(売上原価明細)

〈省略〉

以上

別表(二)の(2)(一般管理・販売費明細)

〈省略〉

以上

別表(三)

〈省略〉

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